みなさんこんにちは。
今回は岩盤浴による温浴効果が喫煙によって阻害されるという研究論文を発見したのでご紹介したいと思います。
岩盤浴の効果とは
まず岩盤浴の効果についてお話します。
一般的に温泉や岩盤浴の効果について期待されているのは温浴効果というもので、体を温めることによって起こる体内の血管拡張作用や発汗作用を促進して健康へプラスにはたらく効果が期待されます。
しかしよく「新陳代謝が活発になる」という人がいますが、これは医学的にはまだエビデンス(証拠)がないとされています。
これまでの研究では、皮膚の温度上昇や血流量の増加があったという報告があるにすぎません。
温泉との違い
温泉には「湯治」というものが古くからあり、温泉大国日本では温泉浴は病に効くものとされてきました。
現代医学ではこれを「温泉療法」と言います。
実際に慢性心不全患者が温泉浴により心臓の負荷を軽減したという報告もあります。
温泉浴(温泉に入ること)には3つ効果があるといわれています。
- お湯そのものがもつ温度や水圧、浮力、粘性などによる作用
- お湯に溶け込んでいる化学物質による作用
- 景観などの温泉地の環境に対する心理的作用
先ほどの温浴作用はこのうち1と2に関係するものですが、温泉の場合にはお湯の性質が大きくプラスされますので、一般的には岩盤浴よりも温浴効果が高いとされます。
汗をよりかくのはどっち?
Q.温泉と岩盤浴、汗をよりかくのはどちらでしょう?
少し考えてみてくださいね?
答えは決まりましたか?
実は汗を多くかくのは 温泉 の方なんです。
40℃の温泉に首までしっかり10分程度つかると180g減るといわれています。
10分間の岩盤浴ではそこまでの汗はかきません。
汗をかくのが目的であれば温泉の方が効果的なんですね。
岩盤浴のいいところ
ここまでの話だとなんだか温泉の方があらゆる面でいい気がしてしまいますね。
それでは逆に、温泉浴と比べて岩盤浴が優れている点は何でしょうか?
それは
- 心身への負担が温泉浴よりも小さい
- 遠赤外線効果により効率的に発汗する
という点です。
岩盤浴よりも温泉の方が発汗する。
これは実は当たりまえのことで、体の表面温度は岩盤浴している時よりも温泉浴しているときの方が高くなります。
これはお湯(液体)と空気(気体)の熱伝導率の違いによるもので、気体は液体よりも熱を伝えにくいという性質を持っているため、体の表面に届く熱量はお湯の方が高いということなのです。(液体の熱伝導率は気体の25倍)
これは真空魔法瓶の水筒や発泡スチロールをイメージしてもらえるとわかりやすいと思います。
これらの製品は、空気の層を作ることでその内外の熱を伝えにくい性質を有したものだからです。
以上のことから、液体である温泉に体の表面温度を高められることによって大量の汗をかくことがわかります。
しかし汗をたくさんかくことはできますが、体が熱くなると長時間は入っていられません。
40℃の温泉に入っているより、50℃の岩盤浴にいた方が全然楽なのはそれが理由なのです。
短時間での発汗量は温泉浴に劣りますが、岩盤浴は温泉よりも長い間入っていられますので、発汗作用を含め温浴作用を容易に受けられるというのが利点になります。
温浴作用を妨げる要因が判明
さて前置きが長くなってしまいました、本題です。
このように体を温めることによって、発汗を促し、血管を拡張させ、血流を改善する効果が見込める岩盤浴ですが、その効果を台無しにする可能性があるものが指摘されています。
それは万病のもと、喫煙です。
喫煙をすることにより肺ガンや動脈硬化のリスクが上昇することは知られていますが、この動脈硬化が問題になります。
今回研究で指摘されたポイントは
「喫煙により血管の弾性(やわらかさ)に変化が起こり、岩盤浴前後の血管の柔軟性変化が乏しくなっている可能性がある」
ということです。
血管が収縮することで血圧や血流量といったものをコントロールするわけですが、その収縮に関係する血管の柔軟性に喫煙が影響しているというわけなんです!
せっかく体の健康を求めて岩盤浴に入っても、その効果が喫煙によって台無しにされている、そんなの嫌じゃありませんか!?
熱い思いしてただそれだけ、なんてもったいないですね。
ちなみにサウナは温浴効果が強すぎて、それ自体によって血管の柔軟性に影響を与える可能性が示唆されています。
温泉はいいの?
実はこの研究には続きがありまして、喫煙の効果を岩盤浴と温泉浴とで比べると、温泉浴にはあまり影響がないことがわかったそうです。
喫煙が温浴効果に与える影響が、岩盤浴と温泉浴でなぜ異なっているのかはまだ分かっていません。
しかし喫煙による悪影響が気になるという方は、温泉浴の効果的と思われますので、ご参考にしていただければと思います。
引用
この記事を書くにあたって参考にした文献はこちらです
- 沢本圭悟,文屋尚史,米田斉史,武山佳洋.岩盤浴入 浴中に3 度熱中症を発症した1 例.日本救急医学会誌 2009;20:221–225.
- 大波英幸,大河内正一,大網貴夫,吉岡久美子,片岡 喜直,五味常明.岩盤浴における温熱効果の評価.温泉科学2008;58:14–24.
- 望月俊男.温泉療法~岩盤浴など~.日本抗加齢医学会雑誌2009;5:43–49.
- Kudo Y, Oyama J, Nishiyama Y, Maeda T, Ikewaki N,Makino N. Immersion in hot spring improves cardiovascularfunctions in patients with chronic heart failure. 日本温泉気候物理医学会雑誌2008;71:234–240.
- 尾山純一,牧野直樹.温泉入浴における循環動態とその応用について.適応医学2008;12:32–37
- 河野雄平.Arterial stiffness の臨床マーカー.ArterialStiffness 血管壁の効果と老化.東京:メジカルビュー社,2008;14:6–7.
- 美和千尋,河原ゆう子,岩瀬 敏,渡邊順子.全身浴,半身浴,シャワー浴がエネルギー消費量に及ぼす影響.自律神経2004;41:495–501.
- 柳澤 健.痛みと物理療法の原理・特性・臨床応用.痛みと臨床2001;1:349–352.
- 後藤由夫,本郷道夫.自律神経の基礎と臨床(改訂3版).医薬ジャーナル社,2006, 108–109, 142–145.
- 吉岡 哲,山口英峰,西村一樹,小野寺昇.蒸気を伴う高温サウナ浴が動脈硬化度指標に及ぼす影響.日本健康開発財団研究年報2012;33:45–53.