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【感想書評レビュー】虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡 小松成美【内容要約】

虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡 (幻冬舎文庫)

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私は高校の教員として、知的障がいを持った生徒の指導をしたことはない。

 

初任者研修の一環で特別支援学校へ伺い、そこでの指導や生徒の様子について理解を深める1日を送ったことがあるが、逆にいえばその程度である。思い返してみると小学校のときに知的障がいをもった同級生が2名いた。

 

彼女らは、私たち健常者と同じ学級で学んではいたが、言葉の読み書き、計算などの力は低く、コミュニケーションも上手にはとれなかった。それでも私たちは彼女達を排斥することはなく、まあまあ仲良く45人の学年でみんな楽しく卒業したものだった。

 

それから様々な経験をしながら教職課程を終えて教師になった私にとって、知的障がい者とは排斥されるのはもっての他であり、しっかりと援助をして守っていかなければならない存在であった。しかしこの本を読んで、意識が大きく変わった。

 

障がい者は守るものではなく、共に生きていく者。

 

読む人によっては綺麗事に見えてしまうかもしれない。しかし、私たち教師にとって綺麗事はやはり大切なことだ。理想を追い求めずして、希望的な将来は語れないと思う。

 

「合理的な配慮」という言葉が一人歩きし、サポート自体が評価され求められることもある。しかし果たして本当にそれでいいのだろうか?

 

学校にいられる間だけ過ごしやすくしても、人生は学校を卒業してからの方がずっと長い。その人生をよりよく生きていくための配慮なければ、”合理的”と呼べないのではないか。

 

そんな悩みを感じている人にとって、この本は大きな助けになると思う。障がい者教育に生かせる知見が詰まったこの一冊を読んだ感想とあらすじをレビューしたいと思う。

 

日本理化学工業とは

「ダストレスチョーク 」

黒板を使う学校の教員であれば必ずみたことあるチョークだ。そのチョークを作っている会社こそ、日本理化学工業である。

 

日本理化学工業は、2008年「日本でいちばん大切にしたい会社」という本の中で紹介をされ、同年カンブリア宮殿にも登場した会社だ。そんな日本理化学工業の従業員の7割以上が知的障がい者で構成され、製造ラインの最前線は彼らだけで稼働しているというのだ。

 

ダストレスチョークといえば、おなじみの貝殻(炭酸カルシウム)でできた体に害の少ないチョーク。毎日手をチョークまみれにしている私たちにとって、大切な商売道具である。

 

ダストレスチョークは、長さ、太さが常に均一で欠けもなくケースにみっしり入っている。書き味は滑らかで、粗悪なチョーク特有のかりかりという不快な音と手応え生じない上等品だ。

 

私の所属校の学校事務が、経費削減のためにダストレスチョークから別のチョークに変えたことがあったが、品質が悪くて職員室内で不満が噴出し、あっという間に戻ったこともあった。ダストレスチョークはそれだけ多くの教師に支持される高品質なチョークなのだ。

 

そんなチョークを作っているのは、ラインに立つ14〜15人の従業員で、全員が知的障がい者だ。

 

読み書き・計算・コミュニケーション能力に課題があり、求人はおろか一般企業では満足に働かせてもらえないこともある彼らが、どうしてあれだけのクオリティのチョークを製造することができるのか。

 

その秘密は、日本理化学工業に根付く企業理念と製造行程にあった。

 

知的障がい者にできて、健常者にできないこと

知的障がい者の積極雇用に乗り出したのは、元会長の大山泰弘氏だ。

 

彼がどういった経緯で知的障がい者の雇用に注力するようになったのかは本を読んでもらいたいが、彼は知的障がい者の働き方について、こう述べている。

 

"健常者なら15分、30分しか続かない高度な集中力を彼らは持ち、それを数時間継続することができます。私たちが単純作業を何時間も繰り返すと緊張が切れた時にミスが起きますが、この向上でラインを任せている社員は集中力を難なく持続する能力があるんです"

 

健常者と障がい者を比べる時に、我々はどうしても「健常者にできて、障がい者にできないこと」を探してしまう傾向があり、できないことを理由に”守る”という発想に至りがちである。

 

しかし、大山会長は、我々健常者ではできないこと、能力や特徴を彼らが持っていてそれを発揮してもらっていると言う。

 

チョークのJIS規格は0.5mm単位の誤差しか許されない厳しい規格だ。

製造ラインで作られるチョークの本数は1日約14万本。

 

その中に発生してしまう規格を満たせない粗悪なチョークの選別という、最も会社の信用に関わる部分で、知的障がい者たちが力を奮っている。0.1mm単位の長短、欠け、反りなどを的確に見抜き、不良品として排除する。

 

そんな作業をしようと思うだけでダレてしまうが、彼らはそれを常人離れした集中力と観察力でこなしているのだ。

もちろんそのためには、彼らが働きやすい環境づくりが必要だった。

 

マニュアルを作ってもそれを読んで理解できない。口で伝えても正しく伝わらない。実行できない。

 

最初はそんなことが続いたが、大山会長は文字や言葉で仕事を伝えるのではなく、作業に落とし込んで彼らの理解できるルールとして変換したのだ。

 

故に工場ラインで稼働する機械は特別製で、障がい者の方が作業を覚えて実行しやすいよう特注改造が行われている。時計が読めない社員のために時計を砂時計に変えたり、検品や機械の整備に関わる道具一つにも、彼らがきちんと仕事ができるための工夫をこらしている。

 

大山会長は以下のように言う。

"大事なのは無理に教えるのではなく、彼らの理解力に合わせて作業環境を作ること"

 

適切な環境が構築できれば、障がい者の方々は健常者を上回る成果を上げることができる。守る立場に置くのではなく、文字通り共に働く立場として彼らを迎え入れているのである。

 

障がい者への見方、考え方、付き合い方に大きな変革を与える取り組みだと私は感じた。まさに眼から鱗が落ちた体験をした。

 

障がい者の家族の思い

この本の中では、障がい者の家族の方にも取材を行っており、生い立ちから就職に至るまでの経緯、その中での苦悩が記されている。

 

障がいを持った方たちの身近でしかわからなかった、リアルな思いを読むことができる。

 

我が子がまさか知的障がいを持って生まれてくるなんて。歳を重ねてくにつれて現れる顕著な様子と周囲との軋轢に不安を感じる日々。

 

そしてみな口を揃えて「日本理化学工業で働かせてもらえて、本当によかった」という。

 

読んで涙が出た。この部分だけでも、十分に読む価値があると思う。

 

会社経営者としての苦悩

日本理化学工業は4代続く企業で、現会長の大山康弘さんが2代目。現在は4代目として息子の隆久さんが社長として経営を引き継いでいる。

 

いまでこそ、世界から注目され業績を上げている企業であるが、やはり知的障がいを持った人たちを雇用し、世間や社内での障がい者をみる目と闘いつつ、成果をあげられるようになるまでには、並々ならぬ苦労があった。

 

特に4代目の隆久さんは、マーケティングの学ぶため海外留学をして大学院にまで進学した人であるが、突然会社に呼び戻され、当時業績が悪化していた日本理化学工業の建て直しにあたったという経歴を持つ。

 

慈善事業ではなく、利潤を求めなくてはならない。そのためには事業の効率化を図らなかくてはならない。健常者の雇用を増やして、事業計画の再編にあたりたいと伝えるが、周囲からは理解されない。

 

経営が傾きつつあるのに、現状維持のままかわろうとしない会社に苛立ちを感じ苦悩しながら奮闘する姿に心を揺さぶられる。

 

そんな隆久さんがいかに今の経営方針を得て会社の業績を向上できたのか、その企業経営にあたって何を貫くかという柱の重要性がわかる章である。

 

「皆働社会」を目指して

日本国憲法には、労働の権利と義務について記されている。

大山会長は、これは障がいを持った人も同様だと語る。

 

障がいを持った人が、施設で一切の世話を受けて保護的に生活するのは楽かもしれない。しかし、労働をする権利も義務も有する身なのだから、健常者と分け隔てなく働きの場が必要だと訴える。

 

大山会長がかつて出会ったという住職の言葉が心を打つ。

"物やお金をもらうことが人としての幸せではない

人に愛されること

人に褒められること

人の役に立つこと

人から必要にされること"

 

施設にいることで愛されることは満たされるかもしれない。しかし他の4つは、働くことで得られるという。

 

守られることで得られる幸せもある。しかし働くことで得られる幸せは何事にも替えがたい。叱られても、つらいことがあっても、「働かせて欲しい」と彼らは言う。

 

障がい者を取り巻く環境は、昔よりは改善されてきたのかもしれない。世間の見る目も、かつてほど排他的ではないだろう。

しかし、障がい者に対してに見方は、やはり庇護される対象であることが多い。それはある種の差別なのかもしれない。

 

この本を通してそう思い至るようになった。

さらに、この勤労に大しての価値観は、いま働き方を見直すという社会的な機運にも、考えさせるものがあるかもしれない。

働くことの価値。働くということはどういうことなのか。何のためなのか。

それらを改めて問われているようにも感じる。

 

障がい者理解、障がい者の社会的自立について多くの人におすすめできる本

障がい者への理解はもちろんのこと、この事例を通して学べることは大変多いです。私を含め、教職の人でもきちんと障がいのことを理解できていない人は多いと思います。特に高校教員はその傾向が強いと感じています。

 

多様な働き方、多様な生き方が許容され、推進される世の中になっていきます。

 

これまでの画一的な枠にはめていく教育の限界も近いと考えています。

そのためにはまず教員自身が多様な考え方や生き方を受け入れて、それを伸ばしていけるマインドセットをもつことが必要です。そのために読むものとして大変おすすめできる本です。

 

これからを生きる子ども達にもぜひ読んでもらいたいです。どうしても何かの優劣で差を付けたくなってしまいがちですが、そんなのものは尺度の違いでひっくり返ってしまうということを、この本を通して知ることができると思います。

 

読書感想文の題材にもぴったりの本だと思います。

 

知的障がい者の雇用や支援の現状について、また障がいの区分や等級についてもこの本の中でまとめられています。学べることが多く、ぜひ多くの人に一読していただきたい一冊です。

 

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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  • この記事を書いた人

でく

元高校教師でブロガー。得意ジャンルは教育・家電・ガジェット・健康美容。便利グッズや電子機器を収集してレビューするのが趣味のオタク。 小学・中学・高校はゲーム三昧。東北大卒。大学院修了後は公立高校教諭。買ったものを人に紹介する趣味が高じてブログを立ち上げる。デグー・リチャードソンジリス・スナネズミを飼育するげっ歯類好き。

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