遺伝子の本体を探し求める実験と、遺伝子の形を証明した実験を学習するためのプリントです。コピーペーストをして使っていただいてOKです。ぜひ使ってください。
生物学の歴史に関する学習は、教師から生徒への情報伝達の実験になりがちです。しかし、こういった単元だからこそ実験考察問題の良い題材として使えると思います。
実験背景と実験内容、結果から考察を導く練習になります。「考察」がよくわからない生徒には、筋のとおるストーリーを考えるというと意外と伝わります。
できるかぎり生徒が考える時間、書く時間を長くとれるように授業設計をしましょう。私の場合、グリフィスの実験ではノーヒントで考えさせて、生徒から出てきたアイデアについて補足やヒントを追加していくようにします。
途中考えたアイデアはすべてプリント上に残すようにします。このプリントでは、考察内容を覚えることではなく実験内容と結果から考察を導く経験を積むということに重点を置いています。アイデアの軌跡が残ることで、思考の流れや変化を可視化することができます。
最近の入試傾向ではこれらの王道の遺伝子研究の歴史が問われる頻度が下がっています。それよりも実験から考察を導かせる問題が増加しています。
内容を覚えさせるのではなく、実験考察の経験を積むよいきっかけにしてください。
遺伝子の本体は? グリフィスの実験
肺炎双球菌という細菌類がいる。本体の周りには,外部からの攻撃から守ってくれるカプセルのようなものを持っている。また一部,カプセルを持っておらず本体がむきだしで存在している肺炎双球菌もいる。カプセルを持っているものは表面がなめらか(Smooth)であるためS型菌,カプセルを持っていないものは表面がざらざら(Rough)しているためR型菌と呼ばれている。一般にS型菌は感染力(感染して病気を発症する力)が強く,R型菌は感染力が低いとされている。
( )の実験
S型菌をマウスへ注射すると,マウスは発病し死にいたる。
R型菌をマウスへ注射すると,マウスは発病しない。
S型菌を加熱殺菌してマウスへ注射すると,マウスは発病しない。
そこでグリフィスは考えました。
S型菌を加熱殺菌したものと,R型菌を混ぜてマウスへ注射するとどうなるだろう?
「発病しないもの」と,「発病しないもの」を混ぜても発病しないと思われたが,
なんとマウスは発病して死んでしまった。しかも死んだマウスからは生きたS型菌が検出された。 なぜだろう。考えてみよう。
遺伝子の本体は?② エイブリーらの実験
グリフィスの実験がきっかけで発見された「形質転換」であったが,形質転換を引き起こす物質が何なのかまでは未だ分かっていなかった。しかし,S型菌をすりつぶした抽出液を,R型菌に混ぜるとR型菌はS型菌へと「形質転換」をすることまでは実験によって分かっていた。「形質を変える」ことは,本来R型菌にはなかった遺伝情報が外部(S型菌の抽出的)から取り込まれ,それがカプセル(タンパク質)をつくっているという事実に他ならない。ということは,その「形質転換」を引き起こす物質が分かれば,それが遺伝情報の本体に違いない。
( )らの実験
S型菌の抽出液を3つの処理にかけて,R型菌と混ぜ合わせて結果を比較した。
- S型菌の抽出液を,まったく処理しないでR型菌へ加えると,S型菌に形質転換する
- S型菌の抽出液を,DNA分解酵素と混ぜてR型菌へ加えると,形質転換はしなかった。
- S型菌の抽出液を,タンパク質分解酵素と混ぜてR型菌へ加えると,S型菌に形質転換する。
これらのことからどんなことがわかるだろうか?
抽出液+R型菌の溶液 → S型菌への形質転換を引き起こす物質が(含まれる・含まれない)
DNA分解酵素+抽出液+R型菌の溶液 → S型菌への形質転換を引き起こす物質が(含まれる・含まれない)
タンパク質分解酵素+抽出液+R型菌の溶液 → S型菌への形質転換を引き起こす物質が(含まれる・含まれない)
∴ 形質転換を引き起こす物質は によって破壊されるので, である。
遺伝子の本体は?③ ハーシィとチェイスの実験
( )と( )の実験
ハーシィとチェイスはエイブリーらとはまったく別の方法で,遺伝情報の本体を特定した。
二人は,細菌類に感染するウイルス,T2ファージと呼ばれるそのウイルスを利用した。
T2ファージは,タンパク質の殻とDNAから構成されている。T2ファージに感染された大腸菌は死に,大腸菌内から大量の子どものT2ファージ(子ファージ)が放出されることが知られていた。T2ファージはなんらかの物質を大腸菌へ送り込み,その物質をもとに子ファージを作っているようである。その物質こそが遺伝情報であると考えたハーシィとチェイスは次のような実験をした。
ファージのタンパク質を放射性同位体35Sで標識(目印をつけること)し,DNAを放射性同位体32Pで標識したファージを大腸菌に感染させた後,大腸菌表面についているファージをかくはん機によって振り落とし,大腸菌を取り出して検査すると,大腸菌内部から32Pが検出された。
※放射性同位体で標識されたものは放射線を放出するようになり,検査のときに分かりやすくなる。
質問Ⅰ:かくはん機を使ってファージを振り落としたのはなぜか?
質問Ⅱ:この実験から,ファージが大腸菌の内部に送り込んでいた物質とは何か?
遺伝子の本体の形は? ワトソン・クリック・シャルガフ・ウィルキンス
以上の研究者の実験の甲斐があり,遺伝子の本体はDNAであることが分かった。ではDNAは,一体どんな形をしているのか?一本鎖,二本鎖,三本鎖,四本鎖。DNAの形について多くの議論がされたが,実験的に証明はできなかった。女性研究者のフランクリンはDNAのX線解析を行って,nm(10億分の1m)単位の形を写真に撮った。シャルガフはDNAにはアデニン(A)とチミン(T)が同量,グアニン(G)とシトシン(C)が同量含まれると発見した。(シャルガフの規則)
そこへ,フランクリンの研究結果とシャルガフの研究結果からひとつの解答を導きだした二人の研究者がいた。
( )と( ) 1953年発表
二人はフランクリンの撮ったX線解析画像(資料集p70)と,シャルガフの規則からDNAは二重らせん構造をしていると発表した。しかもAとT,GとCが結合していると発表した(相補性)この構造はフランクリンとシャルガフの研究結果を融合させた,画期的な発想であった。このときワトソンは世界で最先端の数学を用いて,この構造を数式で証明している。やっぱり数学すごい。自らは実験報告を行わず,発想だけを発表したこの論文だったが,この発見からノーベル賞を受賞した。
科学誌「Nature」に載った1953年の論文(省略)
科学誌に載る論文は多くが20ぺージに及ぶが,ワトソンとクリックの論文はわずか2ページ。
論文の書き出しは
「我々は,デオキシリボ核酸(DNA)の塩の構造を提案したいと思う。この構造は,生物学的に見て極めて興味をそそる斬新な特質を備えている」
We wish to suggest a structure for the salt of deoxyribose nucleic acid (D.N.A). This structure has novel features which are of considerable biological interest.
という小説めいた書き出しとなっていた上,その斬新な発想は多くの人の目を引いた。
実はデータ盗用の疑義がかかり,いまなお批判をする人もいる。気になる人はwikipedia等で調べてみてね。
ちなみに同じくNatureに載ったSTAP細胞に関する論文は26ページである。