英語CBT試験を公立校で実施することは可能なのか?【下村博文】

コラム
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11月30日(土)の日刊スポーツで、なんて馬鹿げた話を…と思ってしまう記事が載りました。

下村博文元文科相が29日、都内の日本記者クラブで一連の大学入試問題をテーマに会見した。来年度からの大学入学共通テストで英語の民間検定試験が見送りになったことについては「制度設計、民間任せのスキームに問題があった。試験会場も各都道府県の教育委員会が公立学校を会場に提供し、先生も試験官をやってもらえば、やれたと思う」などと主張した。やはり中止を求める声が噴出している記述式問題については「民間は何十万人を対象に記述式問題もやっており、実績がある」と答えたが、民間業者が実施する模擬試験のことを指しているとみられる。自民党の会合で、東大に英語の民間試験を活用するよう圧力をかける発言をしたとの指摘については否定し、「東大の学長はやる気はあったみたいなので、大学のガバナンスについて話した」とした。

下村元文科相 民間は記述式の実績ある  日刊スポーツ 11月30日(土)

私が注目したのは

試験会場も各都道府県の教育委員会が公立学校を会場に提供し、先生も試験官をやってもらえば、やれたと思う。

という発言である。今回の英語民間検定試験実施が延期になった原因は学校現場の活用をしなかったから、と発言したのである。

とんでもないことだ。なぜ英語民間検定試験の大規模な会場準備と試験監督を現場が肩代わりしなければならないのか。今回はこの発言のおかしさについて考えてみる。

試験会場の問題

現行の英語検定でも「団体申込」という制度がある。これを活用すれば本会場以外を認定試験会場とすることができる。それを活用して学校が準会場として認められば、慣れ親しんだ環境で、周囲は同級生などの顔見知りの中で試験を受けられる。

しかし実施上の問題があったり、試験問題の漏洩があったり、すでに問題視されている制度でもある。

英語教室等を準会場とした場合に、1次試験の合格水準を甘くしているなんていう噂も聞こえてくるほどである。学校現場ならまだしも、実績や営業に関わってくる私塾においては、英語検定試験の合格率は大きな宣伝効果を生むからだ。学校現場ではそのようなことが起きないということを祈るばかりだが、それについては後半で再び言及していきたい。

学校での準会場に話を戻す。学校での準会場認定については、「受けたい生徒10名」と「準会場を許可する先生」の両方がそろって初めて実現するものである。先生が面倒を見られる規模には限界があるため、規模は決して大きくなく、30名〜50名といった具合と考えられる。

こういった実施実績があるので学校現場を活用しようなどと発言しているのだろうが、少し考えれば3つの点で実現が厳しいことがすぐわかる。

本会場と同様のシステムを学校現場に設置する必要がある

そもそも、通常の英語検定試験と、大学入試で使用する4技能CBT試験の違いをわかって発言しているのだろうか?

通常の英語検定1次試験はペーパー試験だが、英検が今後活用していく4技能型のCBT試験は、コンピューター場で試験を行う。

大学入試で使用される予定の1 day S-CBTの受験環境がHPに掲載されている こちら

受験席全てにパーテーションを設置

受験席は最低でも幅80cmを確保し、メモ用紙を用意

スピーキング・リスニング用にヘッドセットを完備

日本英語検定協会HPより

公平性を担保するためには、学校でこれに準ずる環境整備をしなければならないが、それをできる学校がどれほどあるのか…考えただけで厳しいことがわかる。

既存のコンピュータールームを改装して活用する場合、高校のコンピュータルームのコンピュータ台数は、1クラス用に40台が標準的である。

これをパーテーション区切りや席の配置、スピーキング・リスニングができるためのハード面・ソフト面の負担費用はもちろん国がしてくれるのだろうか?

何十億円規模の予算を組めるのか? 疑問である。

学校のコピュータールームでは学年生徒全員をさばけない

試験問題の漏洩を防ぐためには同日・同時試験が求められる。

学校での準会場試験の場合は、当然受験者は同時に受験する。基本的にペーパー試験のため、会場さえ大きくしたり増やしたりすれば受験者を収容することができるからだ。

しかしCBT試験の場合は、先述の環境整備が必要である。たとえ巨額の資金を投入して学校のコンピュータールームを整備できたとしても、1学年200名超を擁する進学校が多い中で、圧倒的に台数不足である。200人を同時受験するCBT受験環境づくりを学校でできるはずがない。

通常の英語検定試験では準会場開催が認可されていても、CBT試験ではこういったハード面の課題が多いため準会場は設定されない。もし会場を増やすのであれば、検定試験企業に一層の資金を回して会場を増やしてもらう他ない。

構築したシステムの信頼性

これは英検側も頭を悩ませいている問題でもあるが、構築したシステムがただしく機能するとは限らない、という点も問題だ。

現場のCBT試験本会場では、すでにいくつかの問題が発生している。

やみくもに会場を増やせば、これ同様の問題が起きるリスクが急激に高まる。

ましてや、システム責任者を常駐できない学校で、誰がシステム管理維持の業務と責を担うのか。民間業者から人員が送られてくるのか。システム管理者の確保も必要だ。

こんな状態で、受験の公平性が担保されるのだろうか?

試験監督を学校教員が行う問題

学校で日常的に実施している模擬試験では、学校教員が試験監督をすることもあるだろう。模擬試験は土日に開催されることが多いため、教員はその日の代休を平日にとることになる。本校の場合では、試験監督のためだけに多くの教員を動員することは非合理的だと考え、OB・OGに試験監督バイトを雇い、そのバイト代をPTAの後援会が支出している。これはかなり恵まれた例で、多くの学校現場では模擬試験実施の問題を抱えたままである。

学年生徒全員が受験する場合、模擬試験と同様の規模になるため、模擬試験監督の問題をそのまま英語民間検定試験に持ち込むことになる。これをどう解消するつもりなのだろうか?

不正が横行する懸念

現行の英検の準会場開催においても、不正を懸念する声が上がっている。

これは学校現場で行う場合でも同様である。いや、むしろもっと深刻な問題になるかもしれない。

これまでの英語検定試験は、調査書に書くことができる程度の資格で、入試にダイレクトに使用されるケースは多くはなかった。一部大学で英検2級をもっていれば、個別試験80点換算にしますよ、といった具合である。

しかし今回の英語民間検定試験は、入試の点数・評価として使用できるものである。その試験点数を上げることができれば入試に大幅に有利になるのは間違い無い。進学実績を重要視している進学校が多い中で、点数アップのための不正が発生しないという保証はない。

現状でも、推薦入試のために評定を甘くつけるということが平然と起きているのだから、それくらいのことは起きてもおかしくはないと思われる。

試験は公正に行われなければならないのが大前提である。

そこにモラルの要素を持ち込んではいけない。

受験改革が形式ありきになっている

入試を改革せよ、の号令のもとここ数年で急速に様々な取り組みを行い、そしてその尽くで問題が発生している。

皆様お忘れかも知れないが、入試改革の柱は2本柱であったはずだ。

  • 大学入学希望者学力テスト → 大学入学共通テスト に改称 2020年度より
  • 高等学校基礎学力テスト → 高校生のための学びの基礎診断 に改称 2019年より

火中にある大学入学共通テストは、今まさにいろいろな意見を受けながらブラッシュアップしていく最中であるが、実はひっそりと「高等学校基礎学力テスト」と呼ばれていたものが進んでいる。

高校生のための学びの基礎診断 (文部科学省HP)

大学入学共通テストに注意が引かれ、「高校生のための学びの基礎診断」の現場認知は大変低いのが現状である。

すでに活用する民間試験の認定は終わっていて、文部科学省のHPでは話が進んでいる。

平成30年度「高校生のための学びの基礎診断」の認定について(文科省HP)

入試改革をいそぎ大きな反響・反感をよんでいる現状で、これらをこそこそと進めていていいのだろうか? そもそもなぜメディアではあまり取り上げられていないのだろうか? 巨額の資金が民間資本に流れていることを指摘する声は、あまり聞こえてこない。

教育改革を急ぐ気持ちはわからないでもないが、よい制度づくりのためにしっかりと吟味をして行くことを切に願う。

入試改革は、とりあえず形を変えてからダメなところは後で修正していけばいいという方針で進めていいはずがない。

すでに多くの問題点を指摘されていることを真摯に受け止め、今一度考えて欲しい。

損をしたり割を食うのは、他ならない、受験生、子供達なのだ。

入試の形を作り替えることありきで、慎重さを欠いた改革には疑問しかない。

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